緑内障でしてはいけない運動と推奨される運動｜眼圧を上げないための正しい知識

視野が徐々に欠けていく病気だと聞くと、日常生活のすべてに制限がかかるのではないかと不安になる方が多くいらっしゃいます。特に普段から体を動かす習慣がある方にとって、スポーツやトレーニングを続けてもいいのかは切実な問題です。

実は緑内障と診断されても、運動をやめる必要はありません。むしろ適切な運動は眼圧を下げる効果が期待できることが研究で明らかになっています。ただし避けるべきタイプの動きと、積極的に取り組みたい動きがあるのです。

緑内障とは｜静かに進行する視野の病気

緑内障は日本人の失明原因の第1位とされていますが、実は40歳以上の20人に1人が患っている非常に身近な病気です。視神経がダメージを受けることで視野が徐々に欠けていきますが、初期段階では自覚症状がほとんどありません。片方の目で見えない部分をもう片方の目が補ってしまうため、気づきにくいという特徴があります。

視神経が障害される仕組み

眼圧が高くなると視神経が圧迫されて障害されます。眼圧とは目の中を満たしている房水という液体の圧力のことで、正常値は10から21mmHgとされています。ただし正常な眼圧でも視神経が障害される正常眼圧緑内障というタイプもあり、日本人にはこちらの方が多く見られます。

眼圧は1日の中でも4から5程度変動し、季節や体調によっても変化します。そのため1回の測定だけでは判断できず、定期的な検査が必要になるのです。

緑内障の進行パターンと症状

視野欠損は周辺部分から始まるため、日常生活ではなかなか気づきません。文字を読み飛ばしたり、人や物にぶつかりやすくなったりして初めて異変に気づく方が多いのです。霞んできて濃い明るい霧の中にいるように感じる場合、すでに中心部分にまで視野欠損が及んでいる可能性があります。

一度障害された視神経を元に戻すことはできないため、早期発見と適切な治療で進行を遅らせることが何よりも大切になります。

眼圧を上昇させる運動｜避けるべき動きと姿勢

運動は健康維持に欠かせませんが、緑内障の方は眼圧を急激に上げてしまう特定のタイプの運動に注意が必要です。すべての運動が禁止というわけではなく、眼圧への影響を理解して適切に選べば問題ありません。どのような動きが眼圧を上昇させるのか、具体的に見ていきましょう。

息を止めて力む無酸素運動

ウェイトリフティングやダンベルを使った高強度の筋力トレーニングは、呼吸を止めてぐっと力を入れる動作が伴います。このような動作は眼圧を急上昇させるため推奨されません。

力を入れる瞬間に息を止めると、バルサルバ効果という現象が起こります。胸腔内圧が高まって顔が真っ赤になるような状態では、眼圧も同時に上昇してしまうのです。重いバーベルを持ち上げる動作や、全力でのベンチプレスなどは避けた方がよいでしょう。

筋力トレーニングを続けたい場合は、軽い負荷で回数を増やす方法に切り替えることをおすすめします。呼吸を止めずに自然に続けられる程度の負荷であれば、眼圧への影響を最小限に抑えられます。

頭が心臓より低くなる姿勢

ヨガは心身のリラックスに効果的な運動ですが、すべてのポーズが緑内障の方に適しているわけではありません。頭を下に向けるポーズや逆立ちのような姿勢は、重力の影響で眼圧が変動しやすくなります。

ダウンドッグや前屈のポーズなど、頭が心臓より低い位置になる動きは長時間続けないようにしましょう。ヨガを続けたい場合は、インストラクターに緑内障であることを伝えて、頭を下げるポーズを避けるように調整してもらうとよいでしょう。

高強度のレジスタンス運動

短時間で高い負荷をかけるレジスタンス運動も眼圧上昇のリスクがあります。筋肉に強い負荷をかけると呼吸が止まりやすく血圧も上昇するため、結果として眼圧に影響を与えてしまいます。

腹筋運動やスクワットも、正しいフォームで呼吸を続けながら行えば問題ありませんが、無理な回数や重量を追求するのは避けましょう。

緑内障の方に推奨される運動｜眼圧を下げる有酸素運動

避けるべき運動がある一方で、積極的に取り組みたい運動もあります。適度な有酸素運動は眼圧を下げる効果が期待でき、緑内障の進行を遅らせる可能性があることが研究で示されています。呼吸を止めることなく酸素を取り込みながら持続的に体を動かす運動が理想的です。

ウォーキングと軽いジョギング

歩いているのか走っているのかわからないくらいの軽いジョギングは、緑内障の方に最適な運動です。会話ができる程度の強度で、呼吸を止めることなく続けられます。

週に3回、1回30分程度を目安に続けることで、眼圧を下げる効果が期待できます。無理のないペースで、景色を楽しみながら歩くだけでも十分です。朝や夕方の涼しい時間帯に、近所を散歩する習慣をつけるとよいでしょう。

大切なのは心拍数を適度に上げて、全身の血流を良くすることです。血液循環が改善されると、目の周りの組織にも栄養が行き渡りやすくなります。

水泳やサイクリング

水泳やサイクリングも有酸素運動として適しています。水の中では体への負担が少なく、関節に優しい運動ができます。クロールや平泳ぎで、ゆったりとしたペースで泳ぐことをおすすめします。

サイクリングは平坦な道を選んで、無理のない速度で楽しみましょう。坂道を全力で登るような高強度の運動は避けて、景色を眺めながらのんびり走る程度が理想的です。

継続が大切｜一回だけでは効果は限定的

運動の効果は一度の短時間では得られません。一定の期間、継続的に運動を行うことで眼圧を下げる効果が現れてきます。週に数回、数ヶ月続けることで初めて目に見える変化が期待できるのです。

忙しい日々の中で運動時間を確保するのは難しいかもしれませんが、通勤時に一駅分歩く、エレベーターの代わりに階段を使うなど、日常生活の中に取り入れる工夫をしましょう。

日常生活で注意したい姿勢とストレス｜眼圧を上げる生活習慣

運動以外にも、日常生活の中で眼圧を上昇させる要因があります。特に姿勢とストレスは自律神経を通じて眼圧に大きく影響するため注意が必要です。普段何気なく行っている動作が、実は目の健康に影響を与えている可能性があります。少しの意識で改善できる習慣を見直してみましょう。

長時間のうつむき姿勢を避ける

スマートフォンを見たり読書をしたりする際のうつむき姿勢は、眼圧を変動させる要因の一つです。デスクワークで長時間下を向いていると、首から目への血流も悪くなります。

1時間作業をしたら10分程度休憩を取り、遠くを見たり目を休めたりする習慣をつけましょう。スマートフォンは目の高さまで持ち上げて見るようにすると、首への負担も軽減されます。

読書をする際は、本を少し高い位置に置いて、顔を下げすぎないように工夫してください。書見台を使うのも効果的です。

就寝時の姿勢にも配慮を

うつぶせ寝や横向きで寝る姿勢も眼圧を上昇させる可能性があります。うつぶせで寝ると枕や布団で目が圧迫されて、眼圧が高くなってしまうのです。

仰向けで寝ることが推奨されており、中央部分が少し低めの枕を使うと快適に仰向けの姿勢を保てます。横向きで寝る習慣がある方は、圧迫される側の目の眼圧が高くなることがわかっているため、できるだけ仰向けを心がけましょう。

ストレスと自律神経の関係

ストレスは自律神経のバランスを崩し、交感神経が優位になると血管が収縮して血流が悪くなります。眼においても血流不足が起こり、視神経への栄養供給が滞ってしまいます。

交感神経が活発になると眼圧も上昇しやすくなるため、ストレス管理は緑内障の進行予防に重要です。深呼吸やストレッチ、軽い運動などでリラックスする時間を意識的に作りましょう。

睡眠不足もストレスを増幅させる要因です。質の良い睡眠を十分に取ることで、自律神経のバランスが整い、眼圧も安定しやすくなります。

カフェインと水分摂取の注意点

コーヒーが目に悪いのではないかと心配する方が多いですが、常識的な量であれば問題ありません。1日に3杯程度のコーヒーは眼圧に大きな影響を与えないとされています。

ただし短時間に大量の水分を一気に摂取する行為は、眼圧変動のリスク因子となり得ます。1リットルの水を数分で飲むようなことは避けて、こまめな水分補給を心がけましょう。

東洋医学から見た緑内障｜目と身体全体のつながり

東洋医学では緑内障は肝と腎が深く関係していると考えられています。西洋医学の眼科治療に加えて東洋医学的な視点からのアプローチを組み合わせることで、症状の改善や進行予防の可能性が高まります。目だけでなく身体全体のバランスを整えることが、目の健康につながるという考え方です。

鍼灸による眼圧低下の可能性

鍼灸施術によって眼圧が低下して安定し、視野欠損の進行を防ぐことができた例が報告されています。刺鍼によってある程度眼圧を低下させられることが確認されているのです。

自律神経調節治療、首肩や背中の筋緊張緩和、眼の周囲への鍼通電療法を組み合わせることで、眼の血液循環を改善し房水の排出を促します。筋肉の緊張がほぐれると血流が改善され、目への栄養供給もスムーズになります。

肝と腎を整えるアプローチ

東洋医学では目は肝と深い関係があり、腎も視力に影響すると考えられています。肝や腎の機能を高めるツボを用いた鍼灸刺激によって、身体全体のバランスを整えます。

ストレスで肝の気が滞ると、目にも影響が出やすくなります。また腎が弱ると視力の低下や目のかすみにつながると考えられているため、これらの臓腑を整えることが目の健康維持に役立つのです。

病院治療との並行で相乗効果を

緑内障の治療は西洋医学の点眼薬治療を基本としながら、東洋医学的治療を加えることで症状の改善や進行を防ぐことができる可能性が高まります。病院と並行して鍼灸治療を受けることで相乗効果が期待できるのです。

眼科での定期検診を欠かさず受けながら、身体全体のケアとして鍼灸を取り入れる方が増えています。薬だけでは改善しにくい自律神経の乱れやストレスにも、鍼灸は効果を発揮します。

緑内障と上手に付き合うために｜今日からできる生活習慣

緑内障と診断されても、過度に心配して行動を制限する必要はありません。適切な運動を選び、日常生活での姿勢やストレス管理に気をつけることで、視野欠損の進行を遅らせることができます。自覚症状がない段階で見つかった方は、むしろ幸運だと考えて前向きに対応しましょう。

避けるべき運動と推奨される運動

分類	運動の種類	理由
避けるべき	ウェイトリフティング、高強度の筋トレ	息を止めて力むと眼圧が急上昇する
避けるべき	逆立ち、頭を下げるヨガポーズ	頭が心臓より低くなり眼圧が変動する
推奨される	ウォーキング、軽いジョギング	眼圧を下げる効果が期待できる
推奨される	水泳、サイクリング	有酸素運動で血流が改善される

日常生活で心がけたいポイント

• 有酸素運動を週3回、1回30分程度取り入れる
• 長時間のうつむき姿勢を避け、1時間ごとに休憩を取る
• 就寝時は仰向けの姿勢を心がける
• ストレス管理で自律神経のバランスを整える
• カフェインや水分は適量をこまめに摂取する
• 眼科での定期検診を欠かさず受ける
• 点眼薬は医師の指示通りに続ける

治療を中断しないことが最も重要

緑内障で最も避けるべきことは、自己判断で点眼や通院をやめてしまうことです。初期から中期では自覚症状がほとんどないため、見えているから大丈夫だと治療を中断してしまう方が少なくありません。

しかし治療を止めている間も視神経のダメージは静かに進行します。一度失った視野は元に戻らないため、治療を継続することが何よりの予防策なのです。

緑内障は治る病気ではなく、治療は進行を遅らせて生涯にわたり視機能を保つことが目的です。そのため生涯通院することになりますが、定期的な検査と治療の継続が可能なように、病気のことをよく知って環境を整えることが大切です。

正しい知識で目の健康を守る

緑内障は静かに進行する病気ですが、適切な対応をすることで視野を守ることができます。眼科での治療を基本としながら、運動習慣や生活習慣を見直し、東洋医学のアプローチも取り入れることで、より総合的なケアが可能になります。

息を止めて力む運動は避けて、有酸素運動を週に数回取り入れましょう。日常生活ではうつむき姿勢やストレスに注意して、自律神経のバランスを整えることが大切です。そして何よりも、眼科での定期検診と点眼治療を継続することが、視野を守る最大の方法です。

緑内障でお困りの方、視野が気になる方は、眼科での治療を続けながら、東洋医学の視点からのサポートもご検討ください。身体全体のバランスを整えることで、目の健康を守ることができます。