
院長:泉お気軽にご相談ください!


もうすぐ赤ちゃんに会えるという喜びの反面、夜になるたびに「また眠れない…」と感じていませんか。臨月に入ってから、仰向けになると苦しくて目が覚めてしまうというご相談を、当院にも多くいただきます。
「横向きで寝ていたはずなのに、気づいたら仰向けになっていた」「どの体勢でも何となく落ち着かない」。そんな夜を何度も過ごしているあなたに、今日は東洋医学の視点も交えながら、少しでも楽に過ごせるヒントをお伝えしたいと思います。


臨月のお身体の辛さは、睡眠不足だけでなく全身の気血の滞りにもつながります。産前のケアをしっかり整えることが、安産と産後回復にも大きく影響しますので、ひとりで我慢しないでほしいなといつも思っています
臨月に仰向けで寝ると苦しくなる理由を知っておくと、「どうして私だけこんなに辛いの?」という不安が少し和らぐと思います。これは体の異常ではなく、赤ちゃんが大きくなったことによる自然な反応です。まずはそのメカニズムから丁寧に解説していきますね。
妊娠後期、特に臨月に近づくにつれて子宮はかなりの重さと大きさになります。仰向けになると、この大きくなった子宮が背骨の前側を走る「下大静脈」という太い血管を圧迫してしまいます。下大静脈は全身から心臓へ血液を戻す大切な通り道ですから、ここが圧迫されると心臓に戻る血液量が減り、血圧が急に下がってしまうのです。
これを「仰臥位低血圧症候群」と呼びます。仰向けになった途端に気分が悪くなったり、冷や汗が出たり、ひどいときには意識が遠くなるような感覚を覚えることがあります。これは決して珍しいことではなく、臨月の妊婦さんの多くが経験することです。
赤ちゃんが下に降りてくる「児頭下降」が起きる前の時期は、子宮が上方にも大きく広がっています。仰向けになると、その重みが横隔膜を上から圧迫するため、深呼吸がしにくくなり、息苦しいと感じやすくなります。肺が十分に広がれないので、少し動いただけで息切れするというのも、このためです。
仰向けで寝ると、腰椎の前弯(腰のS字カーブ)が強調されやすくなります。臨月は骨盤を支える靭帯が緩んでいる時期でもあるため、仰向けの姿勢は腰痛や恥骨痛を悪化させる原因にもなります。「仰向けが苦しい」という感覚は、身体があなたに姿勢を変えるよう知らせているサインでもあるのです。
「仰向けに寝てはいけない」と聞いて、うっかり仰向けで寝てしまったときに罪悪感を感じてしまう方もいらっしゃいます。でも、過度に心配しなくて大丈夫です。ここでは正しい知識をお伝えしますね。
就寝中に気づかずに仰向けになってしまうことは、ほとんどの妊婦さんが経験します。完全な仰向けでなく、少し角度がついた状態であれば血管への圧迫もかなり軽減されます。大切なのは「ずっと仰向けでいないこと」であり、苦しいと感じたらすぐに横向きに戻すことを習慣にするだけで、多くの場合は問題ありません。
仰臥位低血圧症候群が起きると、気分が悪くなる・息苦しい・冷や汗が出るなどのサインが出ます。身体が不快と感じたらすぐに左側を下にして横向きになる、これだけで症状はほぼ速やかに改善します。「苦しいな」と思ったときが行動のタイミングです。


ここからは実際に今夜から試せる具体的な方法をお伝えします。一つひとつ自分に合うものを探しながら、少しでも快適な夜を取り戻してくださいね。
産婦人科でもよく勧められる「シムス位」は、臨月の妊婦さんにとって最も安全で楽な寝姿勢の一つです。やり方はとてもシンプルで、左側を下にして横向きになり、上側になる右足を前に出して膝を曲げます。この姿勢にすることで下大静脈への圧迫が最小限になり、胎盤への血流も確保しやすくなります。
右側を下にする横向きでも短時間なら問題ありませんが、左側を下にするほうが血流の観点からはより望ましいとされています。「左だと肩が痛くなる」という方も多いので、次に紹介するクッションの活用と組み合わせてみてください。
シムス位がつらいと感じる大きな原因の一つが、上側になる脚の重さで骨盤がねじれることです。上になった右膝の下にクッションや抱き枕を挟むだけで、骨盤のねじれが軽減されてぐっと楽になります。
クッションを活用するポイントを整理すると、次のようになります。
どれが自分に合うかは個人差があります。いくつか試しながら「これだと朝まで眠れた」というポジションを見つけることが大切です。
「どうしても仰向けの姿勢が一番楽」という方もいらっしゃいます。完全な仰向けは避けてほしいのですが、背中の下に薄い折りたたんだタオルや傾斜クッションを入れて、上半身を15〜30度程度起こした「半仰向け」にする方法があります。この体位であれば下大静脈への圧迫を大幅に軽減しながら、仰向けに近い安定感を得ることができます。授乳クッションや妊婦用ウェッジクッションが使いやすいのでおすすめです。
姿勢の工夫だけでなく、日中・就寝前の過ごし方を少し見直すだけで、夜の睡眠の質がぐっと変わることがあります。臨月は特に疲れが溜まりやすい時期ですから、身体への負担を減らす工夫を生活全体に取り入れてみましょう。
臨月に入ると「できるだけ安静に」と考えて、一日中横になっているという方もいらっしゃいます。ですが、適度な動きがないと血液やリンパの巡りが悪くなり、むくみや下肢の不快感が増して夜の睡眠を妨げることがあります。医師から安静の指示がある場合を除いて、室内をゆっくり歩いたり、安産のためのスクワットを少し行ったりすることで、夜の心地よい疲れにつながります。
身体が温まって体温が下がるタイミングが眠りに入りやすい時間帯です。就寝の1〜2時間前にぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、身体の緊張がほぐれ、足のむくみも軽減されます。長風呂やのぼせには注意しながら、15〜20分程度を目安にしてみてください。
「眠らなければ」というプレッシャーが、かえって交感神経を刺激して目を覚まさせてしまうことがあります。眠れない夜は「横になっているだけで身体は休まっている」と考えてみてください。深呼吸を繰り返したり、好きな音楽を小さな音でかけたりするだけで、知らないうちに眠りに落ちていることも少なくありません。
ここからは、30年間で17万人以上の方を診てきた私が、東洋医学の観点からお伝えしたいことをお話しします。西洋医学的な説明とは少し違う角度のお話になりますが、「なるほど」と感じてもらえることがあれば嬉しいです。
東洋医学では、妊娠・出産は「腎」のエネルギーを大きく使うとされています。腎は生命エネルギーの根本を司るとされ、妊娠後期はこの腎のエネルギーが急速に消費される時期です。また、精神的な緊張や不安が続くと「肝」のエネルギーが乱れ、気の巡りが悪くなります。
気血の流れが乱れると、眠りが浅くなったり、夜中に何度も目が覚めたり、身体全体がなんとなく重くなったりします。仰向けで感じる苦しさも、単純に物理的な圧迫だけでなく、身体全体の巡りが弱まっていることと関係していることがあるのです。
東洋医学では「冷え」は気血の流れを止める大きな原因と考えます。特に足先・ふくらはぎ・腰回りが冷えていると、下半身の血流が悪くなって腰痛や脚のつり、眠りの浅さにつながります。就寝前に足湯をする、腹巻きで腰回りを温める、靴下を履いて寝るといった工夫が、身体の内側から眠りを助けてくれます。
三陰交(内くるぶしから指4本上)は妊娠中にも安全に刺激できるツボのひとつで、お灸(せんねん灸など)でじんわり温めるとリラックス効果が期待できます。ただし妊娠中のツボ刺激は種類によっては禁忌のものもありますので、必ず専門家に確認してから行うようにしてください。
臨月の不快な症状をただ「仕方がない」と我慢して過ごすか、できる範囲でケアをしながら過ごすかで、産後の身体の回復スピードが変わることがあります。産後は赤ちゃんのお世話で自分のことを後回しにせざるを得ない時期が続きますから、産前のうちに身体を整えておくことが大切です。
当院では妊娠中の鍼灸ケアとして、腰痛・骨盤の不安定感・睡眠の質の改善などを目的とした施術を行っています。「お腹が大きいのに鍼灸を受けてもいいの?」と不安に思われる方も多いのですが、妊娠中に対応した安全な施術法がありますので、まずはお気軽にご相談ください。
ひとりで「これは普通のこと」「我慢しなきゃ」と抱え込まないでほしいのです。身体のサインに耳を傾けながら、残り少ない妊娠期間をできるだけ穏やかに過ごしてほしいと、心から願っています。
臨月の不調、眠れない夜、姿勢の悩み、どんな小さなことでも、一人で抱え込まずにいつでもご相談ください。あなたとこれから生まれてくるお子さんの健やかな毎日を、全力で応援しています。